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デルタ・ワン(航空会社じゃありません)(一部追記しました)

UBSのトレーダーに奇跡は起きず、デルタ・ワンの損失が逮捕劇に
「奇跡が必要なんだ」。スイスの中央銀行がフランの対ユーロ相場に上限を設定した今月6日、UBSのトレーダー、クウェク・アドボリ容疑者(不正取引で逮捕)のフェースブックのプロフィール画面にはこんな切なる願いが記されていた。 約1週間後の15日午前3時30分、ロンドン市警察は職権乱用による詐欺の疑いで31歳のアドボリ容疑者を逮捕した。UBSはその後5時間足らずのうちに投資家に対し、「1人のトレーダーによる不正取引」で20億ドル(約1500億円)の損失を被ったと伝えた。
  アドボリ容疑者はUBSの顧客向け取引を扱う「デルタ・ワン」部門に勤務していた。同部門は通常、顧客が証券バスケットの運用で投機やヘッジするのを手助けするほか、取引をアレンジする際に同行の自己資金でリスクを取る業務も手掛けていた。2008年1月にフランスの銀行、ソシエテ・ジェネラルに49億ユーロ(現在のレートで5200億円)の損失をもたらしたジェローム・ケルビエル被告も同種の部署に所属していた。
  ソシエテ・ジェネラルの元トレーダーで、グレースパーク・パートナーズ(ロンドン)の資本市場アドバイザー、フレッド・ポンゾ氏は、「過失では二重安全装置を通り抜けることは極めて困難だ。これほど大きな穴をあけるには、意図的にやるしかない。今回の事件が20億ドルの穴なのかどうか、テクノロジーやリスク管理の失敗なのかを問う必要があろう」と語った。
(中略)
   他の金融機関幹部が匿名を条件に語ったところによると、他社のトレーダーは、UBSが上場投資信託(ETF)に絡んだ通貨リスクを十分にヘッジしていなかったか、通貨スワップを誤った方向で行った可能性があると憶測している。スイス中銀が6日に上限設定を発表したのを受け、フランは対ユーロで8%余り下落した。 株・債券、通貨、スワップ、ETFなどを取引するロンドンの証券会社、ETXキャピタルのシニアトレーダー、マノジ・ラドワ氏は「通貨取引で失敗した可能性が最も高い」と述べ、「数日間の出来事ならばショックだ。バックオフィスも気付いてしかるべきだった。先週、短期的に急激な動きを見せたのはスイス・フランだけだ」と指摘した。
9月16日(ブルームバーグ)

なんだか業界ゴシップ紙と化してるこのマーケット事件簿カテゴリ。
本日はUBSによる20億ドル(約1500億円)の損失*
*一昔前の兆円単位の損失に比べれば少ないなー、というのはかなり間違った感覚だと思います、ええ。

UBSロンドンのデルタワン・デスクに所属していたクウェク・アドボリ氏はロンドン時間深夜3時半!にトレーディングフロアで!ロンドン警察に拘束されました*2。容疑は不正取引。
*2:というか、深夜に、しかもトレーディングフロアという巨大な体育館みたいな仕事場で突然警察に踏み込まれて逮捕、というシチュエーションにびっくり、、、。(例、UBSがアメリカ・コネチカットにもっている世界最大級といわれる北米NYのトレーディングフロアの写真(ここ))(ちなみに下記はUBSロンドンのトレーディングフロアの映像)


”デルタワン”デスク、というのは業界での商品区分のひとつで、大概はいろいろな原資産(株や債券、為替、コモディティ)に対して100%近く連動する*3(例えば日経225が1%上昇したら同じく1%上昇するとか)商品を扱う部署です。一般になじみのある商品としては例えばETF(上場投資信託)などがあります。このほかでは例えば株の世界では、キャッシュ(個別株)デスクやプログラム(大規模なバスケット取引などを扱う)デスク、オプションデスク、CB(転換社債)デスク等々があります。
*3:対象資産(ETFとかスワップとか)が、基準となる原資産や指数に対してどれだけ連動するか、を一般にデルタといいます。このデルタ(連動性)が1、つまり1対1で対応する商品をデルタワンといいます。このほかオプションは原資産の動きに対して1対1で連動しないので、これに加えてガンマ・セータ、、といった様々なリスク指標が計算され、利用されています。

このデルタワン商品というのは、最近では例えばETFなどアメリカにいながら海外の市場(例えば日本の日経平均とか、中国の上海株価指数とか)に投資することができる、という利便性が受けて急拡大しております。さらに通常一般海外投資家ではなかなかアクセスできない市場(例えば外貨投資制限がある上海市場など)へスワップ(デリバティブ)などでアクセスを提供したり、インデックスアービトラージ(株式指数バスケットと先物などの裁定取引)などを扱います。
また、上記株価指数ETFは扱う商品の一つに過ぎません。現在ETFは単純な各国の株価指数連動型のものだけでなく、例えば「2倍レバレッジVIXインバースETF」みたいな、名前聞いただけではなにやってるかさっぱりわからないようなETFも出現しております(VIX(米S&P500指数オプションから計算されるS&P500指数オプションのインプライド・ボラティリティ指数)の動きに対して2倍、指数とは逆の動きをする)。

ただ、このデルタワン・デスクというのは基本的には流動性の高い、そしてヘッジが可能(なんせ1対1で連動する原資産がある)な商品を扱うため、基本低リスクでほとんど儲かりません*4。そのため巨大なバランスシートを使ってレバレッジをかけながら、巨大取引フローの中で小額の金額を積み上げて収益を上げていく、という性格を持ちます。
*4:例えば上記のVIXインバースETFとか、難しそうだし、儲かるんじゃね?とか思われるかもしれませんが、実はシカゴにVIX指数先物というのが上場されておりかなり流動性があります。この先物を使えば割と簡単にリプリケート(複製)・トレードできたりするんですね、、これが。

さて、このUBSデルタワンデスクの損失の元となったといわれるのが、先日のスイス中央銀行SNBの為替介入。スイス中銀総裁でヘッジファンドの雄ムーアキャピタル出身*5のヒルデブランドSNB総裁は対ユーロ・スイスフランの為替相場において、1ユーロ=1.2フラン以上のスイスフラン高を認めず無制限に介入すると発表、同時にマーケットで巨額の為替介入を行いました。
*5:世界の中銀総裁でHF出身ってかなり珍しいと思います。ゴールドマン出身者は何人かいますけど。、、え?似たようなもんだって?

デルタ・ワン(航空会社じゃありません)(一部追記しました)_f0005681_722475.jpgこの突然の発表と介入でそれまで1ユーロ=1.1フラン程度で取引されていたスイスフラン相場は急上昇、多くの投資銀行などは「スイスフラン高は当面続く*6」とみておりましたので、直撃を受け大怪我した人が続出したとのこと。
*6:安全通貨、相対的に高利回り通貨として日本円とスイスフランが選好され対ユーロやドルで高値がついていました。また、スイス中銀はこれまでたびたび為替介入を行いながら、なかなかスイスフラン高を押さえられず、大規模介入に対しての警戒感も薄かったように思います。

今回の損失に関しては上記の「通貨スワップでのヘッジミス」という見方以外に「(スイスフランの)オプションでポジションを取っていたのではないか?」との見方があります。確かに上記で書きましたが、デルタワンデスクというのは低リスクのトレードを扱っているデスクですので、それにしては損失が大きすぎるのが引っかかります。ただ、現在ETF商品の多様化に伴い、デルタワンデスクは”兆単位の”ポートフォリオを扱う、”なんでもあり(株だけでなく債券や為替、コモディティ、デリバティブ等々)”のデスクになっていたのも、また事実なんだと思います。
そしてその急拡大やマルチアセット・マルチカレンシーを扱う特性から、十分なリスク管理ができていなったのかもしれません。

「奇跡が必要」と言っていたといわれる容疑者。ちなみに過去このならず者トレーダー(ローグ・トレーダー)と言われたのが、女王様の銀行と言われた、英ベアリングス銀行のニックリーソン、5%の男と言われた住商の銅マーケットの大損失、大和銀行NYにおける巨額損失、そして先日の仏ソシエテジェネラルの損失、、、。

しかしよくよくみると5つのうち3つ(ベアリングス、SocGen、今回のUBS)は全てデルタワン商品での損失となっています。このあたり、決して「難しい」商品でないデルタワンで大損失が起こっている、というのはなんだか示唆に富む気がするのは私だけでしょうか?*7
*7:ちなみにこのマーケットカテゴリで出てくる、ドイチェ先物大量誤発注事件もデルタワンデスクでの事件だといえます。また、こういったアービトラージは「ブルドーザーの前でコインを拾っている」トレードだといわれることもあります。

【追記】ちなみに、やっぱりというかなんというか、不正トレードに手を染めて3年くらい発覚しなかったそうです。最後吹っ飛ばされたのはSocGenと同じ、先物のポジションを積み増して、吹き飛ばされたようです。どうもアーブというと、上記のようにマーケットがボラがないとなかなか儲からない&一回に儲けられるのは小額なので、かなりの忍耐を必要とされる、そんなに派手なデスクではないと思います。そのためあせりとか、周りで一発あてて大金稼ぐやつらに当てられて、「俺も一発、、、」>でも相場勘云々のデスクではないのでうまくいかず損失>取り返そうと不正トレード、、、という感じでは?と思います。
by ttori | 2011-09-16 21:53 | Market(マーケット事件簿)
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小さな窓から見上げると曇り空でも、外に出ると意外と晴れてるもんだ。
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