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アルファの行方

久々にまじめな話(<あほ)。

今週村上ファンドの総帥、村上被告に有罪判決が下りました。
で、その判決についていろいろ出てますが。
もちろん、いろいろ言いたい事はあるのですが、今回はちょっと違った話題。



今回、村上被告がインサイダー取引を引き起こした一つの原因がファンドリターンの低迷があるといわれています。村上ファンドのリターンは長期でみれば日本株ロングオンリーのファンドの標準的なインデックスであるTOPIXを下回っていたようです。もちろん、前半はすばらしい成績を収めていたようですが、後半ファンド規模が大きくなるにつれ、アイデア不足からか、そのリターンは低迷したようでした。

株式市場でプロとして運用されている方には釈迦に説法だとおもいますが、一般に株式投資をするとき、そのファンドのリターンには二つの要素、アルファとベータがあるといわれます。アルファとは、ファンド特有の要素のリターン、ベータとは市場リターンです。
例えば、ある株式ファンドが1年間で10%上昇したとします。この場合、ファンドマネージャーが有能だったのか、それともたまたま運がよかったのか?というのは大きな問題です。で、そのマネージャーの能力を測るとき、初めに使われるのが、目標インデックスとの対比です。
つまり、日本株のファンドマネージャーであればTOPIX(東証株価指数)と対比して、どうだったか、例えば、同じ期間にTOPIXが20%上昇していれば、この10%しかリターンを上げていないファンドマネージャーはきちんとリターンを上げていない、といわれます。この場合で言われるのがベータリターンが20%、アルファが-10%となります。
問題はTOPIXが-10%、あるファンドマネージャーの成績が-5%だったとき。この場合、このファンドマネージャーはアルファで5%(=-5%-(-10%))取れている、と胸を張るのですが、一般の個人投資家にとって、損していることには変わりないわけで。
【追記】まあ、この場合、もともとのアセットアロケーションが問題という話もありますが。。。

ヘッジファンドが高いフィーを取れる(絶対リターンで、上昇の20%をフィーとしてとる)のは、こうしたベータリターンの源泉の市場ファクターをヘッジし(だから”ヘッジ”ファンド)全天候でアルファリターンをめざすからだといわれます。

前置きが長くなりましたが、
最近一部で話題になっているのが、ヘッジファンドリプリケート(再構築・複製)という手法。
これはヘッジファンドに連動するファンドを既存の投資手法で複製する、というもので、ヘッジファンドのリターンを簡易でコストが安くトラックできるとの触れ込みで注目されています。
当然、個別ファンドのリターンは(特にトップファンドなどは)そうそう複製できるものではありませんが、多くのファンドの集合体(例:ヘッジファンドインデックス)であれば、多くのファンドが組み込まれていて十分分散されているため、様々な市場ファクター(金利や株式リターン、ボラティリティなど)の回帰分析でリターン分析を行い、複製できるのかもしれません。
もちろん、各断面断面で複製できても、長期でなかなかきれいにトラックするとは思えませんが、もしトラックできたとすると、ヘッジファンドのアルファとはなんでしょうか?

これまで個人富裕層をスポンサーとしてきたHFが、機関投資家をスポンサーとすることでファンド評価にも厳密さが加わり、HFが選別の時代に入ってきている、と思います。
ある大手の米年金基金のファンドマネージャーの言葉では「ベータにフィーを払うつもりはない。インデックスパッシブと、HFの組み合わせで、アルファリターンとベータリターンを分離し、アルファには高いフィーを払う」との事で、FoHFや機関投資家がHFに投資するときには、ヘッジファンドが本当にアルファを産み出せているのか、というのが厳しく評価されます。
あるHFのマネージャーの言葉だと「アルファは有限でゼロサムゲームだ。でもHFやファンドが多くなるにつれ、アルファを見つけるのが厳しくなってきた」。

アルファを出すのにいろいろ手法があるわけですが、多くのファンドが使っているのが少ないアルファにレバレッジを利かせてリターンを極大化する手法です。
では上記の村上ファンド等、アクティビストファンドのアルファの源泉は何でしょうか?
個人的に思うのは、戦後やジョン・P・モルガンが活躍した時代のように、資本が有限であれば、その株主の力は絶大であったと思います。ところが現代では先進国では資本が積み上がり、株式投資の資金は莫大になっています。つまり、資本が希少価値ではなくなっているのです。そのため、株主の力は相対的に落ちてきていると思います。
で、ファンドなかで、アクティビストファンドのアルファの源泉はバランスシートとキャッシュフロー分析といった手法に加え、委任状争奪戦(プロキシーファイト)など議決権レバレッジという手法を使い、”力ずく”で期間リターンをたたき出すことだと思います(つまり、表に出てきていない企業価値を無理やりに実現する)。
【追記】このあたり、ウォールストリート日記のharry_g さんは4月1日に”「Control」ではなく「Influence」?”というblogを書かれています。ご参考。

今回ブルドックソースに対するスティールパートナーズの判決や、村上裁判などの様々な判決から、その”力ずく感”が表立って文句を言う文化がない日本ではなかなか受け入れられないのでは、と思います。そうすると、この手法での”アルファの実現”は難しくなります。

上記にも書きましたが、個人的にはアルファ(市場の非効率性)は有限でゼロサムだと思います(だからこそ、ファンドが大きくなるにつれリターンが低下する)。そして、ベータでのリターンを成長の源泉にできないファンド業界の成長はいずれ頭打ちになるのではないだろうか、と思うのですが、いかがでしょうか?
ただ、新興国市場等、まだまだアルファがたくさんあるマーケットはありそうですけど。。
(あ、これはあくまで個人的な妄想です。為念。)

なんかまとまりなくてすいません。。。
by ttori | 2007-07-21 18:52 | Market(マーケット事件簿)
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小さな窓から見上げると曇り空でも、外に出ると意外と晴れてるもんだ。
by ttori