少し前に個人的にまとめようと思いながらほっぽってた件。
英スタンチャート、268億円の和解金支払いで合意=当局 英銀行大手スタンダード・チャータード(スタンチャート)は、米国の対イラン制裁に違反して不正取引を行ったと指摘された問題をめぐり、3億4000万ドル(約268億円)の和解金を支払うことで合意した。米ニューヨーク(NY)州の金融サービス監督当局が14日、明らかにした。同行は15日、ニューヨーク州における銀行免許を守るため、公聴会で反論する予定だった。ピーター・サンズ最高経営責任者(CEO)は公聴会に向けニューヨーク入りしていたが、直前で和解交渉が成立、公聴会は取り止めとなった。 米ニューヨーク州金融サービス監督責任者ベンジャミン・ロースキー氏は今月6日、スタンチャートが2500億ドル規模に上るイランとの取引を隠し、数億ドルに上る手数料を得てきたと非難。また米国のマネーロンダリング(資金洗浄)防止法に違反している「悪徳な金融機関」であり、ニューヨーク州における営業免許を失う可能性があると指摘したことで、同行の株価は前週、大幅下落していた。 [ニューヨーク 14日 ロイター] かなりいろんなことを含蓄しているニュースだと思います。 スタンダードチャータード銀行はイランとの取引にからみニューヨークの司法当局と和解しました。 そもそも今回問題になったのはイランとの取引。アメリカはイランなど数カ国の国との取引を規制しています(マネーロンダリング:不法に得た所得をきれいにする事)。その中の一つ、イランとイギリスの銀行スタンダードチャータード銀行(スタンチャート:ちなみに日経とかはスタンダード銀行って約してましたが、スタンダード銀行って別の銀行があるので注意)が行った取引についてニューヨーク司法当局が問題視した、という事件。 (ちなみに下記は南ア大手銀のスタンダード銀行の紹介ビデオ。アフリカの大地が美しい。ちなみにこのスタンダード銀行は上記スタンチャートとは同根の銀行です。) 多分ぱっとみるとふーん、で終わってしまうニュースですが、いろんなことを含蓄しているので、一つ一つ見ていきましょう。 まずなぜ”イギリスの”金融機関たるスタンチャートが”イランと”した取引を”ニューヨーク当局が”取り上げたか。 よくドルは国際決済通貨、といわれます。この意味は何かを国際的に取引しようとすると、ドルを通じて、なるという事を示してます。この意味は要するに全ての国際取引はアメリカを経由する、という意味です。 普通の人は国際取引でドルをやり取りする、と聞くと映画とかに出てくるアタッシュケースにドル紙幣が詰め込まれて、、という光景が思い浮かぶかも知れませんが、現状の国際取引は銀行の決済を通じて電子的に行われます。そして銀行間の国際的な決済でドルを最終的に決済実務を行っているのは今回の場合、ニューヨーク連銀*になります。つまるところ、ドルで決済しようとすると、たとえイギリスとイラン間の取引も、お金のやり取りは必ず米国を経由することになります(実務的には電子データによるやり取りに過ぎないため、実際に実物のドル紙幣をやりとりするわけではない)。 *例えばヨーロッパでドルをやり取りする”ユーロドル市場”は、確かにロンドンで取引が行われますが、最終的な決済やドル”現物紙幣”はアメリカ国内にあります。よく誤解されますが、例えば日本株を外人が買った場合、その株券券面そのものを海外に持ち出すことは基本的にはありません。日本の銀行(カストディ銀行)がその券面を預かり(現在は券面は不発行で電子データのみ)その所有を電子的に書き換えているだけです。そして国際的な円決済は”日銀ネット”といわれる日本銀行経由でお金の決済が行われます。つまり、例えば日本人がドル預金といわれるものをしても実際にそのドル紙幣はアメリカにあることが多く、実際に「紙幣として手元にもらいたい」と銀行の窓口に行くと大概いやな顔をされてしばらく時間がかかる旨のことを言われると思われます。 「じゃあドルを使わなければいいじゃん」とお思いかもしれませんが、現状ドルにかわる国際決済通貨はほとんどないのが現状です。とくに原油など国際的に取引されているものは必ずといっていいほどドルを経由**するようです。 **例えばあなたがアフリカのある国と取引をするとして、その国の通貨で支払いを受けたいか、という事です。その通貨がきちんと円に転換できるかも不明ですし、そもそもその通貨がきちんと法的に裏づけがあるかも不安です。特にどの国でも経済運営に不可欠で様々な取引が行われる原油など”国際的商品”は基本ドルで決済されます。(日本は中東とかと取引するとき、ドル経由ではなく円経由で決済することがあるとのことですけど。これは日本の通貨円が国際決済通貨として認知されているためです。) そのため、例えば第三国の人同士がドル決済***をしようとしていちいち米当局にお伺いを立てているのか?というと答えは半分イエス、半分ノーです。 今回のような第三国同士、アメリカを介さない外外のドル取引はUターン取引とよばれ、基本的にはマネーロンダリングなどのアメリカの法律の埒外に置かれる措置がとられています。とはいえ、アメリカが敵性国家だとみなしている国との取引においては単に外外だといえ、それなりの”説明義務”が課せられています。 ***こうした第三国同士の取引を優遇する制度はオフショア市場と呼ばれています。一方で各国の国内向けの市場をオンショア市場と呼びます。よく脱税などで話題になるタックスヘイブンはこうしたオフショア市場が舞台になります(基本税制優遇しているのはタックスヘイブンのオフショア市場)。 今回スタンチャートはUターン取引のドル決済を行っていたニューヨーク拠点****がこの説明義務をきちんと果たさず、”イランとの取引”という事をめんどくさいのでうやむやにしようとしたのではないか?ということが指摘され、結果巨額の賠償金を払って和解しています。 ****今回スタンチャートが争わずあっさり和解した理由もこのあたりにあると考えられます。元々スタンチャートは特に新興国に他に追随を許さない強大なネットワークをもつ銀行で、特に新興国(アジアやアフリカなど)のドル決済のハブの一つとなっていました(売り上げのほとんどがアジアアフリカで、欧州、アメリカの売り上げはほとんどない)。”アジアに強いから別にニューヨーク拠点がなくなっても大丈夫”というコメントがありましたが、これはドル決済ハブとしてのスタンチャートの強みをきちんと理解していない側面があると思われます。もしニューヨーク拠点がなくなればかれらの新興国にもつ金融機関向けの決済業務(彼らのコア、競争力の源泉)が大打撃を受けた可能性が考えられます。 もちろんニューヨーク司法当局の売名行為とかいろいろな思惑はあるでしょうが、でも国際的な商取引の広大なネットワークの一端を垣間見せる、金融の深い世界を感じさせる事件ではあると思います。
by ttori
| 2012-09-17 11:35
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