インドの鉄人 世界をのみ込んだ最後の買収劇
ティム・ブーケイ バイロン・ウジー (著), 中島美重子 田中健彦 (翻訳) 本書はインドのミッタルスチールがフランス・ルクセンブルグに本拠を置いていた鉄鋼大手、アルセロールを買収するまでの過程と、買収合戦の裏側、特にM&Aの実務的な話を織り交ぜながら、ミッタルスチールがアルセロールを買収するさまが描かれています。 まず、世界一の鉄鋼生産を誇るインドのミッタルスチールの来歴。インドの小さな鉄鋼会社のオーナーの息子として生まれたラクシュミ・ミッタルが、自らインドネシアを振り出しに途上国や東欧の国営鉄鋼メーカーの買収を繰り返し、世界一の鉄鋼会社を一代で作り上げる様。国営で赤字垂れ流していた鉄鋼メーカーを安値で買収、技術者などを大量に送り込み、経営をどんどん立て直していくさまが描かれます。 続いてアルセロールへの買収提案を行うまで。製品の重複が少なく、地域的な補完関係が効くミッタルとアルセロールの合併を提案するラクシュミ・ミッタルに対して、フランス国立行政学院(ENA)*出身でインド人のミッタルを見下すような発言を繰り返し、ミッタルの買収提案を検討すらしようとしないフランス人エリート・ギー・ドレ・アルセロールCEO。さらに、ホワイトナイトとして登場するロシアの鉄鋼大手のセヴェリスタリの大富豪モルダショフCEOの背景や動き。 *ENA(フランス国立行政院):フランスは他国に比べてエリート教育が別立てで整備されており、一部のエリートを選別する制度として選抜官僚学校/大学制度とは別にグランゼコールという制度がある。エリートコースとしてはENAのほかには理工系のエコール・ポリテクニーク等が有名で、フランスの中枢はここの卒業生でほぼ占められている、といわれる。ちなみにENA出身有名人としてはジャックシラク・フランス大統領やジスカール・デスタン大統領、エコール・ポリテクニークはポアンカレやマンデルプロといった学者やカルロス・ゴーン日産CEOなど。 また各国の行政の動き。巨大買収に対して法律的な手当てができていなかったルクセンブルグで、アルセロール側が政治家を巻き込み買収を阻止するため様々な法案を作成しようとするのに対して、ミッタル側のバンカーや広報代理店PRアドバイザー・エージェントがそれを阻止しようと様々なキャンペーンや根回しを行うさま。 そして何よりディールの裏側で働くバンカー・弁護士の動き。中心人物はミッタル側がゴールドマンの欧州M&A部長のヨエル・ザオウイ、そしてアルセロール側がそのザウオイの兄でモルガンスタンレーの欧州M&Aチェアマンのマイケル・ザオウイ。登場するのはメジャーディールメーカーのバンカーや弁護士達。ミッタル側がゴールドマン、シティ、クレディスイス、HSBC、ソシエテジェネラルとクレアリー・ゴットリーブ・スティーン& ハミルトン法律事務所。アルセロール側がモルガンスタンレー、ドイツ銀、メリル、JPモルガン、BNPパリバそしてアメリカの巨大ファーム・スキャデン・アープス。さらにディール中のバンカー間の確執。クレディスイスやシティのバンカーが「ゴールドマンは欧州の鉄鋼について何も知らないじゃないか」と不満を述べる場面や、アルセロールがフランスのBNPパリバを起用したため、激怒した同じフランスのライバル、ソシエテジェネラル(SocGen)がミッタル側のアドバイザーにつく様も描かれていてます。 若干最後が尻切れトンボになってしまっている感はありますが、「国際巨大M&Aの裏側はこんな感じだ」が余すことなく描かれていると思います。 そろそろインターンなどの時期になると思いますが、M&A希望の学生さんとか、ディールについて勉強したい方にはゼヒお奨めの一冊だと思います。 **しかし、この題名はどうかと思いますが、、、もう少しマシな題名はなかったんですかね、、、。 ----------------------------------------------- 上記本を読んでいたとき思い出したCM Morgan Stanley "World Wise" Marketsとか、Dealsとかいろんなキーワードがカッコイイ。 特に最後のthe future、the Worldが耳に残ります。
by ttori
| 2011-08-21 10:41
| 本 / CD / TV
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