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クオンツ

クオンツ_f0005681_21264612.jpgザ・クオンツ 世界経済を破壊した天才たち
スコット・パタースン (著), 永峯 涼 (翻訳)

金融業界で「クオンツ」と呼ばれる人たち-数式を駆使してモデルを構築し、様々な複雑な商品・運用戦略を産み出した人種-の実態を赤裸々に描いた本です。
モルガンスタンレーでPDTグループを率いるミュラー、巨大ヘッジファンドのシタデルを築いたケン・グリフィン、(後のクオンツショックの中心となった)GSAMの巨艦ファンド・グローバルアルファを産み出し、その後巨大HF・AQRを作ったクリフ・アスネス、ドイツ銀行の債券プロップを率い、サブプライムショックで巨額利益をたたき出しながら、その後のクレジット危機で巨大な損をしたボアズ・ワインシュタイン、そしてスタットアーブ(統計的裁定取引)を行い巨額の利益をたたき出し続けている巨大クオンツHF・ルネッサンスを運営する数学の天才・ジムシモンズ氏といった著名クオンツのそれぞれの生い立ちや、彼らのバックグラウンド、運用戦略について書かれています*。
*しかし、巨大とか巨額という単語が多いなあ、、。

まず、クオンツがこの世に誕生した背景を紹介しています。本書ではクオンツのルーツについてエド・ソープによる「ディーラーをやっつけろ!」という本を紹介しています。この本は数学の教授であったソープがカードゲームのブラックジャックについて数理的な確率からプラスの収益を生みだす方法を生み出し(カードカウンティングという手法)、実際にラスベガスのカジノで大勝ちし、それを本にしたものです。この本に影響を受けた人というのは結構多く、本書でもチラッとでてくる、プレディクション・カンパニーのドアンファーマー(”マネーゲームの予言者(プレディクターズ)たち―複雑系科学者、市場予測に挑む”トマス バス (著))もこの本に影響を受けたという記述があります。そして本書でも上記のクオンツ達が夜を徹して大金をかけてカードゲームをする姿が描かれています。

その後、ファーマやローゼンバーグなど様々な巨人が確立した金融工学を礎に、まさに投資の一分野を築いたクオンツ。ところがクオンツショックと呼ばれる主要クオンツが引き起こした巨大なマーケット崩壊(そのときの状況は私の過去のログ(ここ)にあります)までの過程、そしてその後のクレジット危機での苦境について描かれています。
本書でクオンツの大家・ファーマ先生の授業の光景が描かれていますが、その中でまずファーマ教授は第一声で「私が今から述べることの全ては、真実ではない」、また「私が伝えていることの中で、100%真実だというものはない。これは数理モデルの話だからだ。(略)これは物理学ではないのだ。(略)マーケットははるかに不安定で予測不可能なもの~現実世界に対する近似でしかない。~効率的市場仮説。大量のデータに基づいた仮説。我々が間違っている可能性は常にある」とも述べていることが全てを物語っていると思います。
そして全てのピークは2007年のクオンツショック。このとき統計的には5σ以上、という、数千年に一度しかおきない、「特殊イベント」が起こったといわれました。その刻一刻と崩壊していく、彼らのポートフォリオと切れそうになる気持ちを鼓舞し、ポジションを積みますことでうまく切り抜ける姿も描かれています。

本書を読んで思うのは、いつも書きますが数字が示されるとそれを鵜呑みにするのではなく、その数字の前提条件、どういう過程で出てきた数字か、きちんと精査する必要がある、ということ。本書のなかでもCDSで大儲けするドイツ銀のワインシュタインがモデルの相関について前提条件が「大間違いだ」と述べる姿も描かれています。

本書は「クオンツ」という世界の実態をきれいに描いていると思います。ただ、本職クオンツからすると物語風になっている分、深みがない、という意見もあるとも思いますが、それをしてもリーマンショックでの話のべつの側面=CDSやCDOといった商品を産み出した世界、バックグラウンドが理解できるのではないでしょうか。
私個人はクオンツショックを実体験しましたので楽しく読めた本、リーマンショックがなぜ起こったのか、ということを深く理解できる絶好の参考書だと思います。
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最近こればっかですが、LISMO CM「LISMO Fes!」篇

このCMの娘、川口春奈さん、かなりいい感じです、ええ。
by ttori | 2010-09-08 21:19 | 本 / CD / TV
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小さな窓から見上げると曇り空でも、外に出ると意外と晴れてるもんだ。
by ttori