ザ・パニック

f0005681_22245696.jpgザ・パニック
ロバート・ブルナー,ジョン・カー(著), 雨宮 寛,今井 章子(翻訳)

本書は前半で1907年のリセッションを取り上げ、その歴史を振り返り、後半でそのリセッションの研究の紹介と今のサブプライム危機から始まったリセッションについての研究をしています。

1907年のリセッションですが、この時代の特徴は二つ。金本位制とアメリカの中央銀行が存在しなかった、という点です。
1907年のリセッションは、サンフランシスコで起こった大地震による経済の減速がはじまりとされています。大地震によって経済が減速、そして大手銅会社のユナイテッド・カッパー社の株買占め投機失敗に絡んで、この投機を主導したオットー・ハインツ達とその投機のファイナンスを行ったNYの老舗ニッカーボッカー信託(この当時の信託は預金も扱える、日本の信託銀行とほぼ同じ機能をもっていた)の取り付け騒ぎと破綻、ニッカーボッカー信託の社長が取締役を勤めていたアメリカ信託の取り付け騒ぎについて詳細が描かれています。その後、取り付け騒ぎに伴ってマネー流動性が低下、マネーの流動性が低下したことにより株が暴落、証券取引所の閉鎖の危機、TC&I(テネシー石炭鉄鋼会社。チルドレンなんとかではないです:笑)株を大量保有していたムーア・シュレイ商会の危機と、TCIを救済買収するUSスチール。そうした動きの中心にJPモルガン商会のJPモルガン氏などが活躍する姿が描かれています。

当時中央銀行が存在しなかったため、ウォールストリートの中心人物としてJPモルガン商会のJPモルガン氏がその仲間達(ナショナルシティ銀行(現シティ銀)のスティルマン氏やバンカース信託(トラスト)のストロング氏)と対応に当たる姿が描かれています。中央銀行のない当時のクリアリングシステムについての記述や、金本位制におけるマネーの動き(実際にロンドンなどから金が運ばれている)の詳細が面白い。

また、後半はこの金融危機の研究について紹介が行われています。金融は様々なレイヤー(階層)に別れ、複雑に絡み合い、一つの危機が他に連鎖する、等。当時のJPモルガンもニッカーボッカー信託やアメリカ信託はその財務の悪さから”倒産せざるえない”と考えていたようですが、他への波及することを恐れ、信託会社の社長達をまとめて救済に当たらせます。まさに今のNY連銀の働きをJPモルガン氏が担っていた姿がわかります。しかし結果ユナイテッドカッパー投機の失敗が最終的にまったく関係ないムーアシュレイ商会を破綻させ、さらに1907年でもNYの流動性危機がエジプト・ハンブルグ・チリ・ジェノバ等々に波及しておこりったりと、複雑に絡み合い相互に関係しあう金融ネットワークの波及・フィードバック効果はすさまじいという認識をもちます。

後半に書かれていますが、金融には情報の非対称性が存在します。例えば預金者と銀行には情報の非対称性が必ず存在し、その非対称性ゆえに理不尽で感情的な取り付け騒ぎが起こるとの研究を紹介しています。本書で指摘されていますが、JPモルガン氏はそれを直感的に理解していたようで、取り付け騒ぎについて、預金者に聖職者やマスコミを使って冷静になるよう訴えています。

最後のほうに書かれていますが、個人的には現代のサブプライム問題でも多くの問題がその情報の非対称性に求められてると考えています。サブプライムの借り手、ローンブローカー、レンダー、証券化商品組成業者、そしてトランチングしたシニア債保有者、、。各レイヤーで情報の非対称性があり、だからこそ各層でそのリスクリターン分布において超過リターンが必要となります。ところが現代ではその非対称性を十分認識せず、ただ超過リターンのみを得ようとして、つまずいたのが先の金融危機だと思っています。

本文はかなり短く、参考の部分がかなり多いですが、読みやすく、なかなか面白い。現代の金融危機はJKガルブレイス先生の1929年の金融危機と対比されることが多いですが、それと比しても興味深い本だと思います。
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by ttori | 2009-09-22 22:12 | 本 / CD / TV
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小さな窓から見上げると曇り空でも、外に出ると意外と晴れてるもんだ。
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